温度を伝える

低温の計測

低温の環境と聞いてなにを思い浮かべるでしょうか。
身近なものでいえば冷蔵庫ではないでしょうか。冷蔵室は0℃から10℃弱、冷凍室は -18℃以下で温度管理されています。一方、食品を瞬時に凍らせたり、医療現場などでも使用されたりする液体窒素の温度は -196℃です。
低温といってもその温度域は広く、その他にも半導体製造、ロケット開発、エネルギー産業など様々な分野で低温の環境が利用されています。そしてその温度管理には必ずといって良いほど温度計が使用され、温度の計測を行っているのです。

低温測定で注意すべきこと

温度の測定には温度計を使用しますが、測定対象物や温度によって適した温度計を選定します。温度計の種類は主に測温抵抗体や熱電対などがあります。

温度を正しく測定するには、測定環境に関わる様々な測定誤差要因を取り除くことが重要です。例えば、体温計を脇に挟んですぐには体温が測れない様に、測定の際には温度計が測りたいものと十分に接触し熱平衡がとれていることが必要です。熱平衡が十分にとれていなかったり、その他の誤差要因があったりすると、正しい温度が測れているとはいえません。低温の測定においては外気から温度計を通じて熱が流入することにより測定対象物の温度より温度計が高めに指示されることがあります。これも測定誤差の一因であり、この誤差を無くす為には温度計を測定対象物に十分挿入することが必要です。

今後、水素社会の実現に向けて水素の効率的な輸送や貯蔵に関連した液体水素の温度管理の需要も増えてくると予想されます。液体水素の温度は -253℃です。この極低温の環境では先に述べた様な温度計からの熱の流入も大きな誤差要因となるため、導線の種類を比較的熱伝導の小さいものにしたり、線径を細くしたりするなどの対策をします。
またこの極低温では温度計の出力値がJIS規格で規定される値と異なることがあり誤差の原因となるため、使用する前には温度計を校正し、計器を調整することが必要です。この温度計を校正する際、液体水素の温度近傍を実現する必要がありますが、それにはクライオスタットと呼ばれる装置を使用します。冷媒となるヘリウムの潜熱を利用して装置内の温度を極低温にします。装置内にはカプセル型白金抵抗温度計と呼ばれる基準となる温度計と、校正したい温度計を均一な温度になるよう銅ブロックに挿入します。銅ブロック付近に熱アンカーを設置し、そこに導線を巻くことで外気からの熱の流入を防ぎます。このような極低温の環境をつくり、その中で基準の温度計と校正したい温度計の出力値を比較し校正を行います。

当社では 0℃以下の低温において -196℃までのJCSS校正を実施しています。校正の際に低温環境を実現する必要がありますが、その方法は温度によって異なります。0℃以下 -80℃までの温度域ではエタノールを熱媒体とした温槽装置を使用します。 -80℃より低い温度は先に述べたクライオスタットのような極低温装置を、また液体窒素を保温容器入れることで容易に -196℃をつくることも可能です。いずれも方法でも熱伝導の良い銅ブロックの中に基準となる温度計と校正したい温度計を挿入し、出力値を比較して校正を行っています。

JCSS校正した温度計にはJCSS認定シンボル付きの証明書が発行されます。これは技術能力のある校正事業者が校正したこと、そしてその校正値は日本の国家計量標準へのトレーサビリティが確保されていることを証明できます。温度計を校正することはその温度計のもつ特性を知ることができ、正しい温度をはかることにつながります。