基礎知識
高温用熱電対
高温用熱電対(HT-THERMIC)の素線
高温用熱電対(HT-THERMIC)用熱電対素線は測定温度ならびに、測温環境に応じて、2000℃までの温度にはタングステン・レニウム系素線(C)を、1800℃までの温度には、白金・ロジウム系素線(B)を標準として使用しています。なお、原子力用途などの特殊環境用にはご要求により、Pt・5%Mo-Pt・0.1%Mo、Ni・18%Mo-Niなどの特殊素線も使用いたします。
C(W・5%Re-W・26%Re)・適合雰囲気:還元、不活性、真空、核環境
タングステン5%レニウム・タングステン26%レニウム熱電対素線は両脚にレニウムを添加することによって脆化が防止でき機械的強度も大幅に改善される点に着眼して開発されたものです。この熱電対素線は1650℃に加熱しても脆化することなく、アニール処理が行えるため、初期E.M.Fのシフトの問題が解消し、使用中の断線事故が防止できるなど多くの利点からタングステン-レニウム系熱電対の主流になりつつあります。
0~900℃までの熱起電力は、リニアリティが良好です。この熱電対は高温核環境下でも多くの使用実績があります。
タングステン-レニウム合金は酸化しやすいため、空気中その他の酸化性雰囲気中では使用できません。
B(Pt・30%Rh-Pt・6%Rh)・適合雰囲気:酸化、不活性
+脚にRh(30%)を含むPt・Rh合金と、-脚にRh(6%)を含むPt・Rh合金を用いた熱電対です。白金にロジウムの含有量を増すにつれて、融点及び機械的な強度が増し、またR及びS熱電対の使用中に生ずる+脚から-脚への(Rh)の拡散による熱起電力特性の劣化を防ぐことを目的とした熱電対です。さらに酸化性、中性雰囲気中での連続使用が可能であり、還元性雰囲気中でも一般的にはR熱電対に比べて長寿命を有しています。
ご使用の際は、保護管及び絶縁管には高純度アルミナ(99.5%以上)材質を使用して下さい。さらに熱電対自体の取り扱いにも注意を要し、手の汗や油で汚損されないよう、アルコール、ベンジンなどで汚れを取り除いて下さい。
なお、合金成分中のロジウムは中性子吸収断面積が大きく短期間にパラジウムに転換するため核環境の測定には適しません。
熱電対素線の特性概要
型番 | 種類 | 測温範囲 | 融点 | 熱膨張係数 | 電気抵抗(μΩ/cm) at0~100℃ |
---|---|---|---|---|---|
C | W5%Re | 0~2300℃ | 3350℃ | – | 18.0 |
W26%Re | 3120℃ | 3.9×10-6/20~1983℃ | 30.9 | ||
B | Pt30%Rh | 600~1700℃ | 1927℃ | 8.9×10-6/20~1800℃ | 19.0 |
Pt6%Rh | 1826℃ | 9.1×10-6/20~1800℃ | 17.5 |
高温用熱電対(HT-THERMIC)の絶縁管
1200℃以上の高温におけるマグネシア、アルミナなどの粉体絶縁材は、絶縁抵抗が急激に低下するため、固形焼結絶縁管が用いられます。一般的に固形絶縁管の絶縁抵抗は同質の粉体絶縁より約10倍程度高い値を示します。HT-THERMICでは主として高純度のアルミナ、ベリリア焼結絶縁管を使用し、熱ストレスによる断線事故を防止しています。
絶縁管の特性概要
型番 | 種類 | 純度 | 最高使用温度 | 融点(℃) | 比熱(Cal・g/℃) at20~1000℃ |
熱伝導度(cal・cm-1・℃-1・S-1) at1000℃ |
---|---|---|---|---|---|---|
PS0 | 再結晶アルミナ | Al2O3 99.7%以上 | 1800℃ | 2050±20 | 0.26 | 0.014 |
BE | 再結晶ベリリア | BeO 99.5%以上 | 2200℃ | 2550±20 | 0.50 | 0.046 |
MG | 燃焼マグネシア | MgO 99.5%以上 | 2200℃ | 2800±20 | 0.25 | 0.016 |
(注)最高使用温度は絶縁物の耐火度を表す。絶縁管としてご使用いただくには使用温度における絶縁抵抗特性を考慮する必要があります。最高使用温度近くでご使用の際は必ずご相談下さい。
高温用熱電対(HT-THERMIC)の保護管
保護管材質を適切に選択することが熱電対の信頼性と寿命を事実上決定する最も重要なポイントであることは周知のとおりでありますが、測温環境と熱電対材料との間に複雑な化学反応が起こり得る特殊環境下においての高温測定では、材質を選択するための高度な知識が要求されます。
保護管材質の特性概要
型番 | 種類 | 融点(℃) | 線膨張係数(×10-6) | 熱伝導度(cal・cm-1・℃-1・S-1) at1000℃ |
最高使用温度(℃) | 適合雰囲気 |
---|---|---|---|---|---|---|
MO | モリブデン(Mo) | 2622±10 | 7.2(2000℃時) | 0.328 | 1900 | V・R・N |
TA | タンタル(Ta) | 2850±10 | 6.6(2000℃時) | 0.130 | 2200 | V・N(Ar・He) |
NB | ニオブ(Nb) | 2415±15 | 9.0(2000℃時) | 0.132 | 2000 | V・N(Ar・He) |
PT0 | 再結晶アルミナ(Al2O3) | 2050±20 | 8.6(1000℃時) | 0.014 | 1800 | R・N・O |
BE | 再結晶ベリリア(BeO) | 2550±20 | 8.9(1000℃時) | 0.046 | 2200 | V・R・N・O |
ZR | 気密質ジルコニア(ZrO2) | 2300±20 | 10.0(1000℃時) | 0.010 | 2200 | N・O |
(注)V:真空 R:還元 N:不活性 O:酸化性
各種炉雰囲気における高温用金属の安定性
雰囲気 | モリブデン | タンタル | ニオブ |
---|---|---|---|
空気または酸素を含むガス | 400℃~500℃で酸化 800℃以上で激しく蒸発 |
500℃以上で酸化および窒化物生成 | 200℃以上で酸化、窒化 |
乾燥水素(1mm2当り約0.5gの水を含む) | 融点まで酸化せず | 400℃~800℃で水素化物生成 融点まで腐食せず表面酸化 |
200℃から水素吸収 1900℃で水素化物生成、酸化 |
水分を含む水素(1mm2当り約20gの水を含む) | 1400℃まで酸化せず、以降表面に針状結晶生成、重量減少 | 450℃以上で水素化物生成、著しく酸化 | 200℃から水素吸収 1900℃で水素化物生成、酸化 |
分解乾燥 アンモニアガス |
融点まで腐食せず | 400℃以上で窒化物と水素化物生成、より高温では完全に窒化 | 200℃以上で水素化物、窒化物生成 |
不完全燃焼乾燥 アンモニア |
融点まで腐食せず | 400℃以上で窒化物と水素化物生成、より高温では完全に窒化 | 200℃以上で水素化物生成、400℃以上でアンモニアを分解窒化 |
アルゴン、ヘリウム等の 不活性ガス |
融点まで腐食せず | 融点まで腐食せず | ヘリウム中では1900℃で結晶成長し脆化 |
真空 約0.113Pa(約10-3TORR) 約0.0113Pa(約10-4TORR) |
1700℃まで腐食せず 2150℃以上で著しく蒸発 |
ゲッター効果による脆化 2200℃以上で著しく蒸発 |
ゲッター効果による脆化 融点まで蒸発小 |
適合炉雰囲気 | 高温、還元性ガス、不活性ガス、低真空(無酸素) | 不活性ガス、高温高真空 | 不活性ガス、高温高真空900℃のNa、Li中 |
各種炉雰囲気における高温用金属の安定性
耐火物・絶縁材 | モリブデン | タングステン | タンタル |
---|---|---|---|
グラファイト | 1200℃以上で急速に炭化物生成 | 1400℃以上で急速に炭化物生成 | 1000℃以上で急速に炭化物生成 |
Al2O3 | 1900℃まで反応せず | 1900℃まで反応せず | 1900℃まで反応せず |
BeO | 1900℃まで反応せず | 2000℃まで反応せず | 1600℃まで反応せず |
MgO | 1800℃まで反応せず | 2000℃まで反応せず ただしMgOの蒸発顕著 |
1800℃まで反応せず |
ZrO2 | 1900℃まで反応せず ただしMoの蒸発顕著 |
1600℃まで反応せず | 1600℃まで反応せず |
ThO2 | 1900℃まで反応せず | 2200℃まで反応せず | 1900℃まで反応せず |
シリマナイト | 1700℃まで反応せず | 1700℃まで反応せず | 1600℃まで反応せず |
シャモット・レンガ | 1200℃まで反応せず | 1200℃まで反応せず | 1200℃まで反応せず |
マグネサイト・レンガ | 1600℃まで反応せず | 1600℃まで反応せず | 1500℃まで反応せず |